総資本回転率とは? 総資本回転率の目安や計算方法を解説
総資本回転率は、会社の資産をどれだけ効率的に活用しているかを測る指標です。
この指標を活用することで、会社が持っている資産を使ってどのくらい売上高が効率的に生み出されているのか、また経営のどの部分を改善すれば効率性を向上させられるのかといったポイントを把握することができます。
また、「総資本回転率は高い方が良い」と聞いたことがある方も多いかもしれませんが、その理由や具体的な計算方法を正しく理解している経営者は意外と少ないのではないでしょうか。また、総資本回転率を単に計算するだけでは意味がありません。この数値を基にどのように経営改善につなげるかまで理解することが大切です。
この記事では、総資本回転率の基本的な計算方法や活用の仕方を、具体例を交えてわかりやすく解説していきます。
1. 総資本回転率とは効率性の指標
この章では総資本回転率の基礎知識について解説していきます。
1.1 総資本回転率は「資本の効率性」を示す指標
総資本回転率は、企業の経営効率、資産の効率を表す指標です。
「売上高÷総資本」で計算し、単位は「回」または「回転」になります。
「総資本回転率」と「総資産回転率」は意味合いは同じと考えて問題ありません。
企業が持っている総資本(総資産)でどのくらいの売上高を生み出しているのか、1年に、何回売上高という形で回転したのかを示す数値です。
金額としては、「総資本」=「総資産」=「資産の部」です。
総資本回転率を理解するうえで重要なのが、「総資本が回転する」という考え方です。
これは、企業の事業活動を1つのサイクルとして捉えた表現です。
①資金の投資(仕入れや生産など)
②商品やサービスの販売
③売上代金の回収
このように、投資→販売→回収の流れを繰り返すことで事業は進んでいきますが、総資本回転率は、1年間でこの①~③までのサイクルを何回繰り返すことができたかを示す指標とも言えます。
1.2 総資本回転率は高いほど効率的な経営
総資本回転率の数値は高ければ高いほど良いとされています。
「売上高÷総資産」で計算しますので、
総資本1億円で売上高が1億円の会社であれば、回転率は1.0回転です。
総資本1億円で売上高が2億円の会社であれば、回転率は2.0回転です。
同じ資産規模でも後者の方が多く売上高を上げられているので効率的だという判定になります。
総資本回転率が高いということは、会社が持っている資産(現預金、在庫、設備)を使って、より多くの売上高を生み出しているということを意味しますので、高いほど効率的な経営だということになります。
1.3 総資本回転率の目安
中小企業の全業種の平均値としては、総資本回転率は、1.0回転です。総資産と年間の売上高が同じであれば平均ということになります。
ただし、総資本回転率は業種・業態や取り扱う商品によっても傾向が変わります。
資料:中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査(令和4年度決算実績)」
・卸売業や小売業は、少額の商品を頻度高く販売し、売上を得る業態のため、総資本回転率は高くなる傾向にあります。商品が短期間で回転するということです。
・製造業は設備を多く抱えるため、総資本回転率はやや低めになります。
・不動産業は、土地や建物など高額な資産を保有し、賃貸収入を得る業態のため総資本回転率は低い傾向になります。
2. 他の指標との違い
この章では、総資本回転率と似た指標について違いを解説していきます。
2.1 総資本回転期間との違い
総資本回転期間とは、会社の総資本(総資産)が売上を生み出すまでにかかる平均的な日数を示す指標です。こちらも資本がどの程度効率的に使われているかを把握するために用いられます。
計算式は、「総資本÷売上高×365日」で計算し、単位は「日」になります。
会社の総資本が1億円、年間売上高が2億円の場合は、
(総資本1億円÷売上高2億円)×365日=182.5日と計算します。
この会社では総資本を使って売上高を1回生み出すのに182.5日かかることを意味します。
どちらも資本効率を評価するための指標ですが、総資本回転期間の方は、特に資本の回収スピードを知りたいときに使います。
2.2 売上高経常利益率との違い
売上高経常利益率は、主に損益の収益性、効率性を示す指標です。
経常利益÷売上高×100で計算し、%で表示します。
総資本回転率が資産効率を見直したいときに使うのに対し、売上高経常利益率は、収益性の効率を把握したい時に使います。
主な違いについては下記の通りです。
※売上高経常利益率の詳細についてはこちらの記事を参考にしてください。
(https://www.kodato.com/blog/p12280/)
2.3 総資本経常利益率(ROA)との違い
総資本経常利益率(ROA)も、効率性の指標です。
経常利益÷総資本×100で計算し、%で表示します。
総資本回転率が「資産がどれだけ効率的に売上に結びついているか」を把握するために使うのに対し、総資本経常利益率はもう1歩踏み込んで、「資産がどれだけ効率的に経常利益に結びついているか」を知るための指標です。
総資本回転率と総資本経常利益率を合わせて見ることで、効率性と収益性の両面を分析できます。
総資本回転率が高いが、総資本経常利益率が低い → 収益性、利益率の改善が課題
総資本経常利益率が高いが、総資本回転率が低い → 資産効率の改善が課題
※総資本経常利益率(ROA)の詳細についてはこちらの記事を参考にしてください。
(https://blog.kodato.com/how-to-roa)
3. 総資本回転率の活用方法
この章では、総資本回転率を実際どう活用するか説明していきます。
3.1 資産の効率的な使い方を見直す
総資本回転率は、売上高÷総資本(総資産)で計算し、現在の自社の回転率を把握します。
この場合、過去よりも回転率が低下している場合は、計算式の分母である総資本(総資産)が無駄に増えていないか、効率的に活用できていないかと考えます。
総資本とは、貸借対照表の資産の部の合計金額になりますが、この資産の部の中身を1つずつ確認し、特に以下の項目に注意しながらチェックしていきます。
・売掛金 : 売上代金が未回収で資金が滞留していないか
・貸付金 : 回収不能なものがないか、早く回収できないか
・棚卸資産 : 過剰在庫になっていないか、不良在庫が含まれていないか
・固定資産 : 稼働率が低い設備や遊休資産がないか
・その他投資 : 本業に関係ない投資、お付き合いで購入している株式などがないか
総資本(総資産)は大きければ良いというものではありません。特に中小企業では限られたリソースで、いかに効率的に売上があげられるかを考えることが大切です。総資本回転率を過去と比較し、具体的な資産項目の活用状況を把握することで効率化に向けたアクションをとるきっかけになります。
3.2 売上高の目標設定に使う
総資本回転率を高めるためのもう一つの方法は、計算式の分子である「売上高を増やすこと」です。
例えば、過去のデータで総資本が5億円、売上高が6億円の場合、総資本回転率は1.2回となります。ここで設備投資を行い、総資本が7億円に増えたとします。このとき、売上高が7億円に増加した場合でも、総資本回転率で見ると1.0回となり、資産効率は低下していることがわかります。
このように、売上高が1億円増えているものの、総資本が2億円増加しているため、過去と同じ効率性(総資本回転率1.2回)を維持するには、
7億円(総資本) × 1.2回(目標回転率) = 8.4億円(必要な売上高)
となり、売上高をさらに1.4億円増やす必要があることがわかります。
このように、総資本回転率は資産投資の効率を測るだけでなく、売上高の目標設定のための指標としても活用できます。
3.3 同業他社との比較による経営改善に使う
総資本回転率は、同業他社と自社の資本効率を比較することで、経営改善の方向性を見つけるのに役立つ指標です。
中小企業庁や信用調査会社(東京商工リサーチ、帝国データバンクなど)が公開している業界別財務指標には、業種ごとの総資本回転率の平均値が掲載されています。これを定期的に確認することで、同業界内と比べて自社の効率性を把握できます。
総資本回転率は、「売上高」と「総資本」の2つの要素を使って計算されるシンプルな指標です。特徴として、「額」ではなく「回転率」という割合で表現されるため、会社規模にかかわらず比較が可能です。たとえば、小規模な会社であっても資産を効率的に使っていれば、高い総資本回転率を示すことがあり、大企業と比べても遜色のない評価ができます。
もっと売上高を上げることができるのではないか、もっと資産を圧縮すべきではないのかなど、新たな経営改善の目安を得ることできます。
4.まとめ
総資本回転率は、「売上高」と「総資本」というシンプルな要素で計算できる、わかりやすい指標です。この指標を活用することで、投資・販売・回収といった自社のビジネスサイクルに問題がないかを端的に理解し、効率性を高めるための基本的な目安を得ることができます。
売上高や利益の増減だけに注目し、一喜一憂するのではなく、総資本回転率を通じて、「資本をどれだけ効率的に使えているか」という視点を持つことが大切です。自社の経営状況を客観的に数値で把握し、「改善すべきポイントはどこか」を考えて経営改善につなげていきましょう。