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借入限度額は月商の6ヵ月分という勘違い

借入限度額は月商の6ヵ月分という勘違い

「借入限度額はだいたい月商の6ヶ月分まで?」
「そもそも借入金ってどうやって決まるの?」

などとお考えの方はぜひこのコラムをお読みください。

こんにちは。古田土会計・代表社員の古田圡満です。

本コラムでは、中小企業の社長の皆さまが勘違いしやすい事例をまとめた書籍『熱血会計士が教える 会社を潰す社長の財務!勘違い』から、ポイントをかいつまんで解説していきます。

今回のテーマは、「借入限度額は月商の6ヵ月分という勘違い」です。
実際、色々なコンサルタントの本を読めば、「借入限度額は月商の6ヶ月分まで」と書いてあります。

またコンサルタントの方は「預金は月商の3ヶ月分ないと危ないですよ、借金は月商の6ヶ月分を超えるともう危険ですよ」ということを、さも真実のように口にすることが多いです。
ところが一つ一つの内容をよく分析してみると、それが実にいい加減であるかということがわかります。

そこで今回は、一体借入金は何で決まるのか、借入限度額の妥当性はどのように判断すべきなのかといったことを解説します。

▽動画でも解説しています

借入金を決めるのに月商はまるで当てにならない!

第一に、月商というのは「PL」の概念なのに対し、借入金というのは「BS」の概念です。
PLとBSの定義については、以下を参考にしてください。

PLとは:Profit and Loss Statementの略。収益から費用を差し引いて利益を知ること。
BSとは:Balance sheet(バランスシート)の略。資産から負債を差し引いて純資産を知ること。

借入金はBSの概念なので、PLを使って考えるとおかしなことになります。
そのことを説明するために、一つ具体例を出しましょう。

例えば、我々会計事務所は粗利100%なので、月商1,000万円ならば1,000万円の粗利益が出ます。

一方でうちのお客様には卸売業もあり、その会社は粗利が10%です。
そのため、その会社が同じ1,000万円の粗利益を稼ぐには、1億円の売り上げを上げなくてはいけません。

ここで今回のテーマである「借入限度額は月商の6ヵ月分」という考えで、それぞれの借入限度額を試算すると、我々は月商1,000万円なので借入限度額は6,000万円です。
それに対し、例の卸売会社のほうは、月商1億円なので6億円の借金ができることになります。

どちらも粗利益は同じ1,000万円なのに、一方の借入限度額は6,000万円で、もう一方は6億円も借りられる。
これがおかしいのは明らかです。
借入限度額を決めるのに、PLはまったく当てになりません。

月商1億円といえど粗利益は1,000万円で、9,000万円の買掛金(負債)があるわけなので、月商をベースに借入限度額を決めるのは不適切です。
以上より、借入限度額を月商で判断するのは完全な間違いであるということがわかります。

◯【ポイント】借入金はバランスシート(BS)で決まる!

借入金はPLでなくBSで決まります。
以下の2つの会社を見比べてみましょう。

卸売会社A:売掛金1億円、買掛金9,000万円、短期借入金1,000万円
会計事務所B:売掛金1,000万円、買掛金0円、短期借入金1,000万円

2社はバランスシートで見るとまったく同じです。
ところが、PLで見ると10倍の差が生まれます。
借入金を決めるうえではどちらが正しいか、正解は前者(BS)です。

借入金というのはBSの概念なので、PLの概念を使って判断してはいけません。
借入金は、原則としてすべてBSで決まります。

そのため、例えば、自社ビルを持っている会社と賃借している会社でも借入金の状況は変わってきます。
自社ビルを所有している会社は3億円のビルを持っていて、3億円の借金をしていると仮定しましょう。
その場合、すでに3億円の借金があるので、新たに運転資金を借りようと思っても叶わない可能性があります。

一方でビルを賃借する場合は、3億円も借金する必要がないので、まだ借入ができる余地があるわけです。
このように借入金の額はバランスシートによって決まります。

バランスシートの左側の科目に土地建物や有価証券を持っているか、またはバランスシート上の売掛金や受取手形、入金条件、支払手形を含む支払条件はどのような内容かといった判断によって、借入限度額は変わってきます。
バランスシートの中には、買い掛け金や支払手形など信用債務的なものもあれば、借入金的な金融債務も含まれているわけです。

そのため、借入金の限度額がどのくらいかは、BSの中で自己資本比率や借入金依存度を見ながら判断します。
借入金が多いか少ないか、借金過多の会社か否かについてもそれで見ることができます。

借入限度額の妥当性はキャッシュフローで判断を

借入金の額はBSによって決まりますが、借入限度額が妥当かどうかを判断するには、BSよりもむしろキャッシュフローとの関係で見るべきです。
たとえ借入金が多かったとしても、キャッシュフローさえ健全であれば、問題なくお金は回ります。

◯【ポイント】借金の返済額さえ少なくすれば会社は回る

過去に、ある企業のキャッシュフロー計算書を見て、「長期借入金の返済額が多すぎるからお金がなくなるんだ」という話をしましたが、借入金の返済額が少なければどうでしょうか。
結論を述べると、借金の返済額が少なくなればお金は回ります。

重要なのは借金の多寡ではなく、借金の返済額が多いか少ないかです。
借金の返済額が少なくなれば、フリーキャッシュフローで返済をまかなえるので、健全な経営が行えます。

その典型例は「不動産・賃貸業」です。不動産業では、不動産を所有するために多額の借金をします。
家賃収入は上がってきますが、現実的には売上より借金のほうが多いです。
不動産業者は月商の6ヶ月分どころか、1年以上の借金をしていることも少なくありません。

ところが、それだけ多く借金を抱えていても会社はちゃんと回ります。
なぜなら利益が出て減価償却費も加わるので、経営状況の健全性を測るフリーキャッシュフローがプラスになるからです。

そして何より、不動産業者は借金を20〜30年の長期で借りることから、月々の返済額が非常に少ないです。
そのため、フリーキャッシュフローで長期借入金の返済をしても、お金が少しずつ残るという形が作れます。
このように長期借入金の金額が月商6ヶ月分よりはるかに多くても、月々の返済額が少なければ問題ないわけです。

この事例を見ても、借入限度額を月商で考えるのは完全な間違いであることがわかります。
この場合、重要なのは月商ではなく、フリーキャッシュフローと月々の返済額です。

◯【結論】借入限度額はBS+フリーキャッシュフローで考える

結論をまとめると、借入金の額が妥当か借金過多でないかを知るには、月商(PL)ではなくバランスシートを見なくてはいけません。
そしてもう一つ、会社が借金過多で回るか回らないかを見るのに重要なのが、「フリーキャッシュフロー」です。

借金の返済をフリーキャッシュフローできちんとまかなえるかどうかを判断しましょう。
先ほどの不動産業の事例のように、借金が多くてもフリーキャッシュフローで返済できるなら問題ない会社です。

利益が出ている会社や減価償却が多い会社、または利益が少なくても返済額が少なかったり、減価償却が多かったり、債権債務のバランスが良い会社などは、借金を返済できます。
借入が多いから借金が返せなくなるのではありません。
そこを勘違いしないことが大切です。

「借入金はないけど支払手形はたくさんある」は完全な間違い

借入金に関するもう一つの勘違いとして、「借金はダメだが支払手形なら良い」ということが挙げられます。
以下ではこれについて解説します。

「親から銀行から借金はするな、できるだけ借金はしないようにと言われている」「借金は嫌いだ」という経営者の方は多いです。借金はしたくないから、代わりに支払手形を振り出している会社もたくさんあります。

「借入金はないけど支払手形はいっぱいある」、こういう経営は完全に間違いです。

◯【ポイント】会社は借金でなく支払手形で倒産する

会社は何で潰れるかというと、お金で潰れます。
会社が赤字だから潰れるのではなく、お金がなくて潰れるのです。

銀行に対する借入金には、いくらでも「リスケ」がききます。
リスケとは、借入金の返済を止めることです。
借入金の返済をリスケで止めても企業は潰れません。

ところが支払手形を落とせなかったら銀行取引停止になってしまいます。
6ヶ月以内に2回など、短期間で支払いが目立って滞ると、銀行取引停止になって会社は倒産します。

くれぐれも間違えないでください。会社が倒産するのは支払手形です。
借金で倒産することはありません。
借金過多でお金が回らなくなったら倒産することがあるかもしれませんが、支払手形に比べるとリスクはかなり小さいといえます。

以上より、会社を良くしようと思ったら、まずは支払手形をなくすことです。
会社を潰さず、安定的に健全な経営をしようと思ったら、いかに支払手形をなくすかを考え、努力してください。

支払手形をなくすためには、受取手形を少なくする、売掛金から少なくする、在庫を少なくするなど、いろいろな方法があります。
無駄なところにお金を投資しないようにするのも良いでしょう。
そういった心がけをすることこそが経営です。

まとめ:借入限度額は月商でなく、BSやキャッシュフローで決まる

◯この記事のポイントをおさらい
  • 借入金は月商(PL)でなくバランスシートで決まる
  • 借入金の妥当性はキャッシュフローとの関係で判断を
  • 借金が多くても、月々の返済額が少なければお金は回る
  • 会社を良くするには支払手形をなくすことが重要

今回は借入金の限度額についての世の中の勘違いについて解説しました。
「借入限度額は月商の6ヶ月分」というのは完全な誤りで、借入金はすべてバランスシートで決まります。

また会社が借金過多でお金が回るかどうかを判断するには、フリーキャッシュフローを見ることが大切です。
借金が多くても、フリーキャッシュフローで借金の返済がまかなえるのであれば、その会社に問題はありません。

加えて、「借金はないが支払手形がたくさんある」という経営は絶対にやめましょう。
借金はリスケがききますが、支払手形を落とせなくなると銀行取引停止になって会社は倒産します。
経営者の方は受取手形や売掛金を少なくする、無駄な投資を改めるなどして、支払手形をなくす努力をしましょう。

なお、バランスシートの基本が分かる『BS(貸借対照表)とは』という資料をご用意しましたので、ぜひ有効活用していただければ幸いです。

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