バリューとは?バリューを導き出すための質問24

「バリュー」は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の中で文字通り最下層に位置するものとなりますが、ミッション・ビジョンを支える存在とも言え、非常に重要です。
なぜなら、ミッション・ビジョンを達成するための行動の「基準」となるためです。
ここが無かったり、ぶれたり、曖昧だったりすると、いくら頑張って行動してもミッション・ビジョンの達成が遠のいてしまいます。
ミッションや経営理念があれば大丈夫、と考えている方もいるのではないでしょうか?
ミッション・ビジョン・バリューの大まかな作成方法については多くの記事が存在しますが、バリューに絞った作成の解説記事はあまりありません。
また、バリューの作成方法の多くは「チームで話し合ってまとめる」という形のものが多いですが、今回はあえてそこには触れずに、むしろ社長一人でも作成できる「バリュー」の作成方法について解説していきます。
1 バリューとは
1.1 バリューの定義
バリューとは、ミッション・ビジョンを達成するため、また企業経営を行っていく上で「大切にする価値観」「行動基準」です。
また、バリューは、組織の文化や行動の指針になり、組織のメンバーや関係者は、組織のバリューに基づいて行動し、意思決定を行います。
1.2 バリューの重要性
バリューは冒頭で記載した通り、ミッション・ビジョンを達成するための土台・根幹、そして物事の行動基準・判断基準として必要なものです。言い換えると「組織文化」の醸成とも言えるかもしれません。
逆に、バリューがないと、それぞれが「自分はこれが正しい」と思ってバラバラな行動をしてしまいます。
例えば、古田土会計のバリューの中に、「良い習慣を身につける」とあり、更に具体的な文言として10の行動指針の中に「うそをつかない・約束を守る」などという項目があります。
「日本中の中小企業を元気にする」というミッション達成のために、「このミスはお客様には分からないし、分かったら解約になるかもしれないから黙っていよう。」、「忙しいから約束の時間に少しくらい遅れても大丈夫。その分はアドバイスで取り返す!」等と考えはじめたらどうでしょうか?極端な例ではありますが、実際の現場ではよく起こっていることです。少しの行き違いがやがては大きな差になって表れてきます。それを防ぐ意味でもバリューの存在はとても大事であると言えます。
また、人を大切にする経営学会会長の坂本光司氏の著書「人を大切にする経営学講義」(PHP研究所)の中で以下のように述べられています。
「組織の存在目的・存在意義を示す経営理念がなければ、方向舵を持たない飛行機や船と同じである。ただ風に任せて動いているだけとなり、そんな飛行機や船は乗っている人々に疲労と不安を与えるだけであるからである。」
ここからもバリューの重要性が伝わってきます。
1.3 バリューを作ることのメリット
バリューを作成することで以下のようなメリットがあります。
- ミッション・ビジョンの達成速度が上がる
- 組織の判断基準ができる
- 個人の判断基準ができる
順番としては③→②→①となるかもしれません。
まず、個人がどのような基準で判断し、行動すべきか、という基準ができます。
そして、個人では判断できない事象や組織づくりなどにおいて、組織としてどのような基準で判断すべきか、という基準ができます。
その結果、組織全体のパフォーマンス向上につながり、ミッション・ビジョンの達成に向けて大きく道を外すことなく進むことができるようになります。
実際に、バリューがあり、落とし込まれていることによって、お客様から「古田土会計さんのようになりたい(=古田土会計のような社風、社員)。」と言われることが多く、口コミ等で顧客数も増加、売上も40年連続増加となっています。
また、様々な賞を頂くことにもつながっています。もちろん、バリュー(理念)だけではありませんが、逆にこれがなかったら受賞できていたかどうかは疑問でもあります。
※2023年度社員満足度調査において 理念浸透(経営理念やビジョンが社員に浸透している)の項目は8.0点/10点
1.4 バリューの事例
古田土会計以外に、世の中の企業ではどのようなバリュー(価値観)を掲げているのでしょうか。
より具体的なイメージをもっていただくために、業種別にバリューの事例を挙げます。
【飲食業】
スターバックスコーヒージャパン株式会社
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。
誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
【小売業】
株式会社メルカリ
Go Bold 大胆にやろう
世の中に大きなインパクトを与えるイノベーションを生み出すためには、メンバー全員が前例にとらわれず、大胆にチャレンジすることが大切です。そのためには挑戦を続け、数多くのトライアル・アンド・エラーを繰り返し、失敗から学びを得ることが重要です。常に会社や自身のビジョン、あるべき姿を見失わず、周囲をリードしながら、ミッションの達成を目指します。
All for One 全ては成功のために
大きな成功を得るためには、チームの力を合わせることはもちろん、やるべきことを見極め、決定したことに全員でコミットすることが大切です。また、メンバー全員が手段や役割に固執せず、成功するために何が必要で、何を求められているのかを考え抜き、パフォーマンスを最大限に発揮することで、ミッションの達成を目指します。
Be a Pro プロフェッショナルであれ
一人ひとりがその道のプロフェッショナルとして高い専門性を持ち、日々の学びを怠らない姿勢は、個人のみならずチームに良い影響を及ぼします。自らを高めるためには高度なスキルとポジティブなマインドの両方を持ち、行動に移すことが重要です。自らの仕事にオーナーシップと責任を持ち、成果や実績にコミットすることでミッションの達成を目指します。
株式会社ファーストリテイリング
・お客様の立場に立脚
・革新と挑戦
・個の尊重、会社と個人の成長
・正しさへのこだわり
※加えて、行動規範(Valueの下位概念)として以下が設定されています。
・お客様のために、あらゆる活動を行います
・卓越性を追求し、最高水準を目指します
・多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます
・何事もスピーディに実行します
・現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います
・高い倫理観を持った地球市民として行動します
【製造業】
キリンホールディングス株式会社
熱意・誠意・多様性〈Passion. Integrity. Diversity.〉
熱意
自由な発想で、進んで新しい価値をお客様・社会に提案することへの我々の熱い意志。会社やブランドに誇りを持ち、目標をやりきる熱い気持ち
誠意
ステークホルダーの皆さまのおかげでキリングループは存在しているということへの感謝の気持ち、謙虚な気持ちで確かな価値を提供し、ステークホルダーに貢献するという誠実さ
多様性
個々の価値観や視点の違いを認め合い、尊重する気持ち。社内外を問わない建設的な議論により、「違い」が世界を変える力、より良い方法を生み出す力に変わるという信念
トヨタ自動車株式会社
トヨタウェイ
ソフトとハードを結合し、パートナーとともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。
ソフト
よりよい社会を描くイマジネーションと人起点の設計思想
ハード
人とモノの可能性を高める装置。
パートナーとともにつくるプラットフォーム。
それらをソフトによって柔軟に、迅速に変化させていく。
パートナー
ともに幸せをつくる仲間(顧客、社会、コミュニティ、社員、ステークホルダー)を尊重し、それぞれの力を結集する。
いかがでしょうか。
概ね、形式的には箇条書きで項目(短いフレーズ)がつらなり、それに対しての解説が加えられている、という構造になっているかと思います。
内容面においては、社員個人がどのように行動すべきか、という行動指針の役割を表現していると言えます。
1.5 古田土会計のバリュー
古田土会計のバリューは以下の通りです。
但し、経営理念=ミッションと捉えることもできますし、ミッション・ビジョン・バリューを総称して経営理念と考える場合もあります。
2 バリューの作成のポイント
バリューの作成ポイントは2つです。
①「対社員」へのメッセージであること
バリューは社員がどのように行動すべきか、してほしいか等といった「対社員」へのメッセージが主となります。
ミッションの作成には、「社会の何を解決したいのか?」、「それはなぜか?」、「そう思ったきっかけは?」等という「対社会」を軸において考えることがポイントとなりましたが、それとは対照的となります。
②とにかく考えること
「価値観」を導き出すことになりますので、自身を振り返るとともにまずは「考える」ことが何より大事です。なぜなら、作成後に社員と共有することになりますが、その際に「自分の言葉」で「ストーリー性」をもって伝えることが重要となりますので、どこかから借りてきたような言葉、価値観だとこの辺りが弱くなるためです。その後、どうしても出てこない場合は価値感のリスト等をヒントに考えることになります。
また、
・簡単かつ明瞭で
・覚えやすい
ということがよいバリューの条件になります。
3 バリューを導き出す質問24
実際にバリューを導き出すための質問を以下に列挙しました。
静かな場所や集中できる場所で是非取り組んでみて下さい。
ただし、全部の質問に答える必要はなく、自分がこれだと思えるものを見つけてもらえるためにこれだけの質問を集めたので必要に応じて選択してみてください。
もちろん、これ以外にもご自身で思いついた問いがあればそちらも考えてみて頂ければと思います。
質問は大きく5つのパートに分かれています。
パート1 個人の価値観に関する質問
1 あなたが大切にしたいビジネスの倫理観は何ですか?
回答例:正直、勤勉(コツコツ)、感謝
____スキルも大切ではあるが、土台は人間性、自利利他
2 あなたのビジネスにおいて、最も大切にしている価値・価値観は何ですか?
回答例:素直、感謝、お陰様、三方よし
3 あなたが生きてきた中で大切にしている価値感、倫理観は何ですか?
回答例:うそをつなない、正直、明るく、明朗快活
4 そもそも働く目的は何ですか?
回答例:関わる人を幸せにしたい
____自己成長
____両親・家族を安心させたい
____金銭的に余裕のある生活をしたい
5 社員にどのような成長機会を提供したいですか?またはどうなってほしいですか?
回答例:人間的な成長
____例えば、感謝できる、礼儀・挨拶がしっかりできる、約束を守るなど
____その上で、自立できるようなスキルを身に着けてもらいたい
6 会社は何のためにあると考えますか?
回答例:社員の成長、お客様への貢献、日本を明るく元気にするため、世界を変えるため、未来の子供たちのため
7 座右の銘など、好きな言葉は何ですか?
回答例:継続は力なり、主体変容、弘法筆を選ばず、努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る。
8 好きな本は何ですか?また、それはなぜですか?
回答例:日本でいちばん大切にしたい会社(坂本光司)
____売上や利益は社員を幸せにするための手段であり目的ではない。人を大切にする経営とは等、経営の本質を考えさせられるため。
9 好きな映画・テレビ(ドラマ・アニメ)は何ですか?また、それはなぜですか?
回答例:ハイキュー
____「チーム」とは何か?「本当の勝ち負けとは何か」を教えてくれるアニメ
10 好きな有名人は誰ですか?また、それはなぜですか?
回答例:鍵山秀三郎
____掃除を中心に、頭だけでなく自ら率先して体を動かして組織を作っていった点
____自利とは利他なりを実践されている点
11 両親から、どのような子供になってほしいと言われていましたか?
回答例:人に迷惑をかけない、疑われても疑わない、正直者はバカを見るでよい
パート2 制限を外す質問
12 制限がないとしたら、会社がどのようになったら最高ですか?
回答例:皆会社・仕事が好きでやりがい、生きがいをもって働くことが出来ている。
____また、給与も世間よりも1割以上高い水準で支払うことが出来ている。
13 制限がないとしたら、社員がどのようになったら最高ですか?
____回答例:皆楽しそうに働き、経済的・社会的・精神的に自立している。
14 制限がないとしたら、お客様がどのようになったら最高ですか?
____回答例:世界一高い給料を支払うことができ、社員満足度も満点!
____もちろん、お客様満足度も満点!
パート3 ミッション・ビジョン起点の質問
15 ミッション・ビジョンを達成するために必要な要素・価値観は何ですか?
回答例:お客様目線、お客様第一、仲間を大切にする、きれいな言葉遣い、5S・6S、感謝、凡事徹底
16 あなたにとってのビジネスの成功(の定義)とは何ですか?
回答例:三方よしの経営で継続的に利益を出し、安定成長すること。
____※自社だけではなく、社員、世の中がよくなっていくこと。
パート4 組織起点の質問
17 組織の成功の定義は何ですか?
回答例:社員全員がやりがい、生きがいをもってイキイキと働いている。
18 組織が追及する理想的な未来の姿はどのようなものですか?
回答例:組織として自立・自走している。
____→社員各自が考え、行動し、結果を出している。
19 組織の行動や意思決定において最も重要な原則や倫理は何ですか?
回答例:うそをつかない、お客様・社員に対して正直である
20 組織は地域やコミュニティに対してどのような貢献をしたいと考えていますか?
回答例:地域の元気が出るような活動
____地域の美化
パート5 社員起点の質問
21 どのような社員が世の中の役に立ちますか?
回答例:人間性が土台にあり、その上にスキル(スキルが先ではない)
____誠実、素直、明朗
22 お客様から喜ばれている、信頼されている社員にはどのような特性がありますか?
回答例:笑顔がよい、明るい、素直、約束を守る、礼儀正しい、時間を守る、誠実
23 成長している社員にはどのような共通点がありますか?
回答例:業務時間外の時間を有効に使っている(例 勉強、読書、講座)、
____人脈が広い、知的好奇心が旺盛、素直、自立
24 どのような社員にはなってほしくないですか?
回答例:うそをつく、社員を蹴落としてでも自分が這い上がる、不誠実
4 個人の価値観をリストから抽出する
3章では質問からバリューを検討していただきましたが、難しい場合もあるかもしれません。
特にパート1の価値観に関する質問については、以下のリストから5つ程度を目安に抽出することも有効な方法です。
5「人を大切にする経営」からヒントを得る
人を大切にする経営学会の代表でもある坂本光司先生が推奨する「人を大切にする経営」からもヒントを得られると思います。
この中からバリュー(価値観)を検討してみても面白いのではないかと思います。
6 バリューに関するQ&A
6.1 バリューは状況に応じて変えてよい?
バリューは行動指針・価値観ですので頻繁に変更するものではありません。
しかし、幹は変わらずとも表現や順番等は状況応じて変更することはよいと思います。
古田土会計の経営理念(バリュー)も当初は
という順番でしたが、10年ほど前に今の順番に変わりました。
また、二(2)の「数字に強い経営者・幹部・社員を育てる」につきましても、当初は
「数字に強い経営者を育てる」から追加して今の形になりました。
6.2 バリューはいくつあってもよい?
バリューは社員と共有し、常に意識・行動するものになりますので多すぎると逆に何が大事なのかがぼやけてしまいます。
古田土会計のバリューは大項目で2つ、事例に挙げさせていただいたものでも3~5つにまとまっていると思います。
このくらいが目安と考えてよいと思います。
6.3 バリューは社長1人で考えなくてもよい?
経営理念に該当するものであれば特にですが、中小企業の場合は社長(経営者)が考えるべきものです。そして、その背景や意味とともに社員に共有し、浸透を図ってください。
※6.4で解説しているクレドであれば、社員から意見を募って作成することもよいと思います。
6.4 バリューとクレドの違いは?
バリューは、企業の価値観・判断基準となりますが、クレドは行動指針を指します。
ミッション・ビジョン・バリューを達成するためのさらに下層の位置づけとなりますが、社風や文化の醸成には重要な役割を果たします。
古田土会計の行動指針は参考までに以下の通りです。
7 まとめ
以上、今回は「ビジョン」についてまとめました。
ビジョンの定義・目的をはじめ、具体的な作成方法(質問)を解説させて頂きましたので、是非作成の役にたててください。
但し、ミッション・ビジョンも同じくですが、作成することがゴールではありません。いかに浸透させて、行動に結びつけるかが大事なポイントですのでそこを忘れないようにお願いします。