賞与なし宣言からの逆転劇 ~会社を立て直した“数字の読み方”~

左:古田土会計 佐藤(担当者) 右:浦和義肢装具製作所 代表取締役 新藤様
会社概要
| 会社名 | 有限会社 浦和義肢装具製作所 |
| 所在地 | 埼玉県 |
| 従業員数 | 10名未満 |
| 設立 | 1965年 |
| 事業内容 | 義肢装具の制作および販売 |
| 経営理念 | 「同心協力」(心を一つにし、皆で協力できる会社) |
| 契約開始 | 2023年6月 |
| 契約内容 | セカンドオピニオン |
【課題】
- コロナ禍をきっかけに売上が減少。現預金が固定費の1か月程度まで減っていた
- 先代社長が病気で引退したことで急遽社長に就任。
「このままでは従業員の生活が守れない」と眠れないほど強い不安を感じていた - 数字から経営改善策を出せず、具体的な数字目標を社員に示すことができなかった
- 社員のためを考えるなら、会社が赤字でも賞与を支給しなければいけないと思い込んでいた
- 義肢装具の製作は保険診療が中心で価格が国に定められており、利益を追求しにくい業種特有の課題を抱えていた
【得られた成果】
- 会社の事業構造を理解し、「どこに手を打てば利益を出せるか」を把握できるようになった
- 支援開始(2年前)と比較し、2025年の経常利益は赤字から黒字へ転換。赤字水準に対して約1.8倍の改善を達成
- 売上・利益を改善したことで、現預金がたまる経営体質に変化
- 2025年夏の賞与では平均で10%の増額を実現
- 全社員に数字を公開したことで危機感が共有され、社員から自発的な提案が生まれるなど、組織が協力的で前向きな姿勢に変わった。
- オリジナル商品を開発し、お客様満足度をさらに高めながら、利益が出せる体制になった
【ポイント】
- 数字から経営判断ができるようになった
月次決算で会社の事業構造を把握し「どこに手を打てば、利益が残るのか」数字から、判断できるようになった - 全社員へ数字を公開するようになった
賞与を「なし」にするという苦渋の決断を機に、会社の危機的な状況を包み隠さず伝え、「社員に嘘をつかない」経営を徹底した - 「未来会計図」を活用した意識改革をおこなった
古田土会計の「未来会計図」を参考に、社長自ら資料を作成して、社員向けの勉強会を実施。具体的な売上目標を社員に共有することで、目標達成のための全社一丸体制になった - オリジナル商品開発に力を入れる決断をした
保険適用商品のため自由に価格設定ができないという課題を乗り越えるため、粗利益率の高い自社オリジナル商品を開発し、お客様満足度をさらに高めながら利益を確保する体制を築いた
浦和義肢製作所様は、義肢装具の製作および販売をおこなっています。
コロナ禍での業績不振を機に、経営の根本的な見直しを決意しました 。
先代から経営を引き継いだばかりの頃の社長は、数字を漠然としか把握できておらず、一人で悩んでいました。しかし、古田土会計の支援を受け、「稼ぐべき利益を逆算する」未来会計の考え方を導入。
全社員を巻き込み、会社のお金の流れと利益構造を徹底的に「見える化」した結果、売上が改善し、現預金がたまる体質へと劇的に変化しました。
古田土会計と契約後の浦和義肢様の財務状態

浦和義肢製作所様は、どのようにしてこの成果を出したのでしょうか。
突然の社長就任、コロナ禍など様々な苦悩を抱え、不安で眠れなかった時期を乗り越え、社員からの「ありがとう」を手に入れる。そんな道のりを、新藤社長へのインタビューを通じてご紹介します。
▽この事例の動画で見たい方はこちら
1. コロナ禍をきっかけとした業績不振に苦しんでいた
経営者の苦悩と会社の危機
ー医療業界はコロナで大きな打撃を受けた企業様も多いですが、浦和義肢様ではどのような課題をお持ちでしたか?
先代である父親が倒れて、急遽経営を引き継いた時には、全くの素人でした。手探りで経営を始めるしかなかったんです。それまでの浦和義肢製作所は、病院の患者様を中心に、なんとか経営を維持してきたのが実情でした。しかし、コロナ禍の到来により状況は一変しました。
病院への出入りが制限され、患者様に直接会う機会が激減したんです。当然ですが売上も大きく落ち込んで、どんどん現預金が少なくなっていきました。「このままでは従業員の生活が守れない」という強い焦りを感じ、眠れない夜を過ごす日もありました 。
自己流でなんとかしようと試みましたが、根本的な解決策は見えず、このままでは会社が立ち行かなくなると感じていました 。
2.売上を改善し、現預金がたまる体質になり賞与も増額
古田土会計との出会いと「未来会計図」
ーどのような経緯で古田土会計を知ったのでしょうか?
経営状況が悪化し、「このままじゃ厳しい」と感じていた時、YouTubeで古田土会計の動画を見たんです。自分に必要なのはこれだ!と思って、「経営計画作成合宿」に参加しました。
それまでは、毎月の売上も細かく見ていませんでした。決算書を見ても「今年こうだった」と思うくらいで、課題や目標も漠然としか持てていなかったんです 。合宿で初めて「経営計画を立て、理念と数値目標を持つ」ことの重要性を感じ、古田土会計と契約を決めました。
ー古田土会計にどのような支援を期待していましたか?
以前は、従業員から「具体的にどれくらい頑張ればいいか」と聞かれても、具体的な数字目標を出すことができませんでした。
だから、古田土会計さんには「みんなに安定した対価を払うには、売上がこれくらい必要だ」という具体的な数字の目標を立て、従業員にも説明できるようになることを期待していました。
業績の回復と賞与の大幅アップ
支援開始から約2年半。月次決算による数字理解や、社員に具体的な数字目標を共有する勉強会を開催した結果、業績は大幅に改善しました。
ー古田土会計と契約してどのような変化がありましたか?
古田土会計さんと毎月月次決算の打ち合わせを重ねる中で、徐々に会社の利益構造を理解できるようになりました。「どこに手を打てば利益を出せるか」「どうすればお金を残すことができるか」を考えられるようになったんです。
2025年の夏の賞与は、売上・利益を伸ばした結果、平均で約10%のアップを実現できました。

3. 全社員に数字を公開したら社員が変わった
数字を公開することになったきっかけ
ー数字を社員さんに公開することは結構勇気がいることだと思うのですが、なぜ、数字を公開しようと決断されたのでしょうか?
古田土会計との契約後、担当の佐藤さんから夏の賞与を「なし」にするという提案がありました。
正直驚きました。それまで賞与を0にしたことは一度もありません。会社の経営状況が厳しい中であっても、頑張ってついてきてくれるみんなのために、「なんとかして賞与を出したい」という気持ちがあったんです。
しかし、担当の佐藤さんからは「今の経営状況の数字だと、ここはやはり出すべきではない」という客観的で厳しい助言を受けました。

経営者の心理的葛藤と決断の理由
ー賞与を出さないと決断した時のお気持ちを教えてください。
この決断は本当に苦しかったです。
当然賞与はあると思っているだろう社員に、「今回の賞与はなしにする」とどう伝えるべきか。前日は眠れないほど悩みました。
経営者として不安だったのは、賞与なしを告げることが経営に対するみんなの不安を煽り、離職につながるのではないかということです。
結局、会社が置かれている危機的な状況を、包み隠さず正直に伝えようと決断しました。それができたのは、「社員に嘘はつかない」という思いと、数字という客観的な事実があったからだと思います。
もし感情だけで判断していたら、無理をして賞与を出してしまっていたと思います。
しかし、今振り返ると、あの時賞与を出してしまっていたら、会社の財務状況はさらに悪化していたはずです。
正しい判断でした。
その結果社員が変わった
ー「賞与をなしにする」と伝えた後、社員さんはどのような反応でしたか?
正直なところ…ものすごい雰囲気になりました。
ですが、素直に伝えたおかげで「ここまで大変なんだ」という危機感が初めて共有されたとも思います。
この発表をきっかけに、「じゃあどうしてこうか?」という前向きな声が社員から生まれきました 。
ある社員からのこんな提案もありました。
「今までは社長一人に権限とやることが集まってしまっていたので、それをみんなで分散して、それぞれに責任を持ってやった方がいいのではないか?」
そこから、経理、営業、製造、自社商品の部門に分けて担当を決めたりと、提案が次々に出てきました。
「賞与を出すためには、売り上げがこのくらい必要」と、具体的な数字目標を提案したところ、社員は「じゃあそこを目指そうよ!」と前向きに受け止めてくれました。
社員に苦しい経営状況を包み隠さず伝えたからこそ、目標に対する一丸体制ができたんです。
4. 毎月「未来会計図」の勉強会を実施することで、社員が変わった
「未来会計図」を通じた数字教育
ー社員さんにはどのように会社の数字を伝えていますか?
毎月、数字を共有する勉強会を実施しています 。
この勉強会では、古田土会計の月次決算書の一部である「未来会計図」(目標達成のために必要な売上や利益、経費などをわかりやすく示した資料)を参考に、私自ら作成した資料をもとに、社員のみんなに解説しています。

▲「未来会計図」(古田土式月次決算書より抜粋)
勉強会で実施していること
勉強会では、売上・利益額・利益率など会社の事業構造を社員に伝えています。
「未来会計図」がもとになっているので、「今月はどうだったか」「目標の売上に対してどうだったか」「何が足りないか」をビジュアルで分かりやすく共有できていますね。
また、「賞与を出すためには毎月いくら売り上げないといけないのか」を全員で確認しています。具体的な目標があるため、達成するためのアイデアが社員からいろいろ上がってくるようになりました。
目標に対する私自身の行動指針も示し、「みんなが社会に貢献できる場にしたい」という理念を繰り返し伝えています 。
実際に勉強会で使用されている資料

※ 会社の事業構造や、数字目標を共有

※ 実方針や理念を共有
会社の数字を見た際に社員さんが思ったこと
入社8年目の塩澤さんに感想をうかがいました。
ー初めて会社の数字を見たときどのように感じましたか?
(会社の状況があまりよくないのは)なんとなく肌で感じる部分はありましたが、数字で出してもらえると、『去年と比べてこんだけ落ちているんだ』というのが目に見えて分かりました。
それでも、具体的な数値目標を共有する勉強会は、大きなモチベーションにつながっています。少しずつですが、社員全員が前向きに取り組める空気へと変わりつつあります。

4. 価格に左右されない「オリジナル商品」を開発
義肢装具製作所特有の課題と解決策
義肢装具の製作は、医師の指示のもとに行われます。病院では保険診療が中心となるため、価格を自由に設定することはできません。国の決めた枠の中で材料を工夫して製作する必要があります 。
ー事業をする中で最も難しいと思うところはどこですか?
「患者様に満足してもらいながら、決められた枠の中で利益を出す」必要のあるところが一番難しいと感じています 。
万人に合う義肢装具というものはありません。お客様自身の状態であったり、生活環境であったりを加味して、100%納得のいくものを作ろうとすると、制作には終わりがなくなってしまうんです。
だから、決められた中で精一杯仕事をして、お客様の満足度を上げながら利益も残していくことを、常に目指しています。
利益率が高い自社オリジナル商品を開発
ーお客様満足度を高めながら、利益や現預金が増える体質になったポイントを教えてください。
浦和義肢製作所が扱う義肢装具には既製品もありますが、ほとんどがお客様ごとに型を取るオーダーメイドの手作りなんです。この「手作り」があるおかげで、既製品では対応できないお客様の「もうちょっとこうしたい」という気持ちや、私たちの思いを乗せることができます。
商品のこだわりは、「技術と誠意で笑顔を作るお手伝い」という理念を体現するものです。浦和義肢装具製作所の強みは「人間力」にあります。優しい気持ちを持って誠意ある対応をし、本当のニーズを聞き出して、少しでも使いやすいものを提供することをいつも意識しています。
しかし、先ほども言った通り、保険適用の義肢装具は自由に価格設定ができません。
そこで、お客様のニーズに応えながら、利益をだせる、自社オリジナル商品の部門を立ち上げることにしました。
保険適用のものと違って、オリジナル商品は自由に価格を設定することができます。無理のない価格設定に加えて、今までは費用の関係で難しかった依頼にも応えることができるんです。
オリジナル商品に力を入れたことで、売上高も順調に回復し、現預金も増えています。


5. 社員からの「ありがとう」を手に入れた
経営者としての最高の喜び
ーあの日から2年後、賞与を再び出せることになった時の気持ちを教えてください。
賞与の袋をみんなに渡した時にようやく、「賞与を出せるんだな」と実感が湧きました。正直なところ…みんなが協力してくれた結果が少しずつ出てくる中で「やっとみんなに返せる」と思うと、本当に嬉しかったです。
古田土会計さんのおかげで、「賞与を支給したい」という目先の感情に流されずに済みました。自分一人では「賞与をゼロにしてでも会社を存続させる」という決断は下せなかったと思います。
たとえ一度賞与を支給できなくとも、「会社を存続させ、お客様から感謝されることの喜びを社員に知ってもらう」ことの方が、私にとっては大切でした。
私の思いを汲み取りつつ、数字に基づいた客観的な判断ができるようご支援いただいた結果、夏の賞与を出すことができて、社員にも感謝されました。
自信を持って社員に賞与を支給し、感謝されるのは、経営者として最高の喜びですね。

※ 浦和義肢様の使命感・理念・ビジョン
賞与の封筒に込めるメッセージ
新藤社長は給与明細を渡す際、給与の封筒に手書きの一言メッセージを添えることを続けています 。これは、普段は気恥ずかしくて言えない感謝や、その社員の具体的な良かった点を社員全員に伝えています。
ー社長からの給与明細に書かれたメッセージについて、どのように感じていますか?
「(メッセージには)『塩澤君がいてくれて嬉しい』みたいな、そういうポジティブなことをいつも書いてもらってます。8年分くらい全部給料の袋に取ってあります。見返すと嬉しい気持ちになりますね」

浦和義肢製作所様の今後の展望
今後は取引先の病院をどんどん増やすのではなく、今受けている患者様への満足度をいかに高め、利益を出し、それを従業員に還元できるかを考えていきます。
商品を通じてたくさんのお客様に喜んでいただき、「この仕事をしていてよかった」という思いを社員のみんなにしてもらえるように、会社を強くして、事業を継続していきます。
6. 最後に
浦和義肢製作所様の成功は、新藤社長が「数字」という客観的な事実に向き合い、「社員に嘘をつかない」という覚悟を持った決断から始まりました 。
経営にとって大切なことは、「客観的な数字」を元に、「理念と目標」を掲げ、「みんなにちゃんと還元したい」という経営者の思いをブレずに伝え続けることです 。
新藤社長から、「今やっとスタートラインに立てた、これからも社員一丸となって、より多くの方に貢献できる会社にする」と前向きなお言葉を頂戴できました。
古田土会計では、日本中の中小企業を元気にするため、社長の思いを実現するために数字でサポートを続けていきます。

