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受取手形は割り引いて使うものという勘違い①

受取手形は割り引いて使うものという勘違い①

こんにちは。古田土会計・代表社員の古田圡満です。

本コラムでは、中小企業の社長の皆さまが勘違いしやすい事例をまとめた書籍『熱血会計士が教える 会社を潰す社長の財務!勘違い』から、ポイントをかいつまんで解説していきます。

この記事では、同著の145ページから148ページを取り上げます。

今回のテーマは、「受取手形は割り引いて使うものという勘違い」です。受取手形は割り引くとどうなるか、割引と裏書ならどちらのほうがお得もしくは安全なのかなどをお伝えします。

会社を潰すのは支払手形なので極力減らしていくべきですが、受取手形の扱いもそれと同じくらい重要です。
受取手形について詳しく理解していない方は、ぜひこの記事で勉強していってください。

▽動画でも解説しています

受取手形の正しい扱い方について

今回取り上げるのは、バランスシートの左側にある受取手形。受取手形の活用方法として、割り引くのは適切なのか、割引か裏書ならどちらを選択すべきかといった話をします。

(参考)
解説の前に、受取手形に関する用語の定義を紹介しておきます。

受取手形:取引先から受け取る信用証券。指定の支払期日・金融機関において、預金を受け取ることができる。

手形割引:指定された支払期日よりも前に手形を銀行で現金化すること。受け取る際に金融機関に割引料(手数料)を支払う

手形の裏書:支払期日の前に、受取手形を第三者への支払い手段として使う。手形を譲渡する際に、裏面に必要事項を記入する。

受取手形は割り引かない【資金調達は借入金で】

さて、まずは受取手形を持っている場合、それを割り引くべきなのか、そのまま持っておくべきなのかについて論じましょう。

この議論で受取手形を比較しなくてはならないのは、「短期借入金」です。短期借入金でお金を調達する場合は、受取手形を割る必要はなくなります。つまり論点は、受取手形を割るのと、割らずに短期借入金で資金を調達するのなら、どちらが良いかということです。

結論を言うと、受取手形は割り引かないでください。そのまま手元に残しておいて、短期借入金でお金を調達するほうが良いです。できるだけそうすることをおすすめします。

受取手形はいざという際に残しておくべき

なぜ受取手形を割り引くべきではないのかというと、受取手形を割り引いてしまうと、いざという時にお金がなくなってしまう可能性があるからです。受取手形は、お金がなくなったときのために残しておかなくてはなりません。

受取手形を割り引いた状態でお金がなくなったと仮定して、そこから銀行に借り入れを申し込むと、お金が手に入るまでにいろいろと時間や手間がかかります。「今お金がまったくないからすぐに借りたい」といっても、手続きに時間がかかって思うように借りられない恐れがあるのです。

一方で受取手形が手元に残っていれば、いざお金がなくなったときにはその手形を割ればすぐに資金を調達できます。そのため、受取手形は手元に置いて、必要なお金は短期借入金で調達するのがおすすめです。

いざというときの安全を考慮すると、受取手形は手元に残しておかなくてはなりません。手形を持っていれば、いつでも割って資金を調達できるので、緊急でない場合の資金調達は短期借入金でやるべきです。この点をひとつ理解しておいてください。

手形を割り引くよりも裏書きしたほうが安全

次に、受取手形を資金に変える場合、割り引いたほうが良いのか、裏書したほうが良いのかについて論じます。こちらも結論から述べると、割り引くよりも裏書するほうが良いです。

割引をする場合、銀行に割引料を取られます。またその手形が不渡りになったとすると、銀行は不渡りになった分の金額を返済しろと会社に迫ってきます。そうすると要求された会社は、預金残高や定期などを取り崩す必要があり、場合によっては返済資金が調達できないこともあります。

さらに大口の取引先が不渡りになると、銀行から「この会社と取引して大丈夫なのか」と不安視され、今後融資をしてもらえないケースもあるでしょう。このように銀行の対応を考慮すると、受取手形を割り引くことはリスクが大きいです。

裏書きなら交渉の余地ができる

一方で受取手形を裏書した場合はどうでしょうか。

仕入先に手形を裏書した場合、受取手形が買掛金に変わります。買掛金の金額を減らして、その分を裏書手形で支払うわけです。

この場合、仕入先とさまざまな交渉ができます。不渡りになった場合は何ヶ月後に支払いましょう、分割して支払いましょうなどと、話し合いをすることが可能です。この交渉の余地がある点が、裏書をする大きなメリットだといえます。

手形を割引し、それが不渡りにあった場合、銀行は待ったなしです。交渉の余地はありません。一方で裏書手形を使う仕入先となら、いくらでも交渉ができます。そのため、受取手形は割り引くよりも、裏書するほうが良いです。

倒産防止掛金の活用方法と注意点

もうひとつ考えなくてはならないのは、「倒産防止掛金」についてです。倒産防止掛金とは、中小機構の「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」を指します。

倒産防止掛金の融資で手形の不渡りに対処できる

倒産防止掛金は、年間で240万円、総額800万円まで掛けることができます。そして、掛けた金額の10倍まで融資を受けることが可能です。つまり満額の800万円を掛けておけば、800万円を全額経費計上できるうえに、いざという場合に8,000万円の融資を受けられます。

そのため、たとえ受取手形が不渡りになったとしても、金額が8,000万円〜1億円くらいなら、その融資によって乗り切れます。

なお、中小機構から倒産防止掛金の融資を受ける場合、上限800万円の掛金は没収です。実質融資額の10%が取られる仕組みになっています。また倒産防止掛金を解約する場合、掛ける場合とは反対に全額収入計上です。

【要注意】倒産防止掛金をメインバンクで掛けてはいけない

倒産防止掛金について注意すべきなのは、メインバンクで掛けてはいけないということです。

メインバンクで倒産防止掛金を掛けてしまうと、融資を受ける際に会社の倒産危機が銀行にはっきりと知られてしまいます。巨額の貸し倒れが出たことが明るみになり、銀行の態度が変わってしまう可能性が高いです。

また受取手形の不渡りについては、倒産防止掛金ですぐに返せと要求されます。

一方でメインバンクでない、借入金の少ない銀行で倒産防止掛金を掛けていると、借入金が少ないわけなので、すぐに返済しろとは言われません。

受取手形が不渡りになると会社が運転資金不足に

受取手形が不渡りになった場合、会社にとって困ることは、大きな取引先が不渡りになることで売上高が下がること、売上高とともに粗利も下がって会社が赤字になることです。当然赤字になると運転資金が不足します。

そのため、不渡り分を銀行に支払う負担は大きく、支払いを避ける、もしくは金額を減らして、運転資金に使うお金を残しておくことが必要です。

よって、もし倒産防止掛金の融資で8,000万円入ってきたら、5,000万円は銀行への返済に充てても、残り3,000万円は運転資金に使わせてほしいというような交渉ができることが望ましいといえます。このような交渉をするには、倒産防止掛金をメインバンク以外に掛けておかなくてはなりません。

メインバンクに掛けてしまうと、交渉の余地は無くなります。倒産防止掛金の融資はすぐに相殺されてなくなってしまい、深刻な運転資金不足に陥ってしまいます。

このような受取手形と倒産防止掛金との関係も、ぜひ理解しておいてください。

「借入金よりも割引手形のほうがお得」ということはない

借入金はずっと利息を支払わなくてはならない一方で、割引手形なら割り引くときに割引料を支払うだけで良いので、手形を割り引くほうがお得だという方もいます。

しかし、私がお客様の事例で計算してみたところ、短期借入金の利息も割引手形の割引料も、支払う金額としては大差ありませんでした。割引手形の利率も、年換算するとそれなりの金額になります。

そのため、少々の利息のことを考えるより、会社の安全性を重んじて、できるだけ受取手形は割り引かないで手元に持っておくのがおすすめです。また割引を選ぶくらいなら裏書きしましょう。

それでも足りなければ短期借入金も視野に入れ、できるだけ手形を割り引かないようすることが、会社の安全にとっては重要です。

まとめ:受取手形は割り引かず、手元に残すべき

この記事のポイント:

・受取手形はいざという場合に取っておくべき
・割引よりも裏書きするほうが安全
・倒産防止掛金はメガバンクに掛けないこと
・手形が不渡りになると運転資金が不足する

受取手形は、いざというときに割って資金を調達するために、普段は割り引かずに手元に残しておくべきです。その分の金額は、短期借入金などで調達しましょう。

また割引手形が不渡りになると、銀行から不渡りになった分の返済を強く迫られるので、銀行相手に割り引くよりも、仕入先相手に裏書きするほうがおすすめです。仕入先となら、支払い期限に猶予をもらったり、分割払いにしてもらったりといった交渉ができます。

さらに倒産防止掛金はメインバンクに掛けないように注意しましょう。手形が不渡りになると運転資金が不足するため、倒産防止掛金の融資分は運転資金として残しておきたいからです。よって、交渉の余地がある借入の少ない銀行に掛けることを推奨します。

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