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【お客様インタビュー】未知の医療業界で商品が売れた秘訣とは(株式会社寿技研 3/7)

【お客様インタビュー】未知の医療業界で商品が売れた秘訣とは(株式会社寿技研 3/7)

本連載は、事業のトランスフォームに焦点をあて、苦境から脱却し業績が伸びた、埼玉県にある株式会社寿技研の代表取締役・高山成一郎さんから、成功に至るまでのストーリーを教えていただいた時の動画を書き起こしたものです。

全7回に渡るシリーズものとなっていますので、ぜひ中小企業の経営のヒントを得ていただけますと幸いです。

▽動画も視聴いただけます

◇前回までの記事はこちら
【お客様インタビュー】脱なんでも屋を図る町工場が新事業に挑むまで(株式会社寿技研 1/7)

【お客様インタビュー】数字に強くなれば会社の将来がより見える(株式会社寿技研 2/7)

【出演者】
インタビュイー:
株式会社寿技研
代表取締役社長
高山 成一郎氏

インタビュアー:
株式会社古田土経営
代表取締役社長
飯島 彰仁

友人の勧めが医療機器展開のきっかけに

飯島 いろいろなことを試みて、やがて医療の分野に進出された寿技研ですが、高山さんはもともと医療に関する知識はお持ちだったんですか?

高山 いえ、全くありませんでした。強いて言えば、父がよく入院していたので、患者の立場として多少理解していたくらいです。

飯島 その程度のレベルですか?…という言い方は失礼ですが(笑)。

高山 その程度のレベルです(笑)。

飯島 どういう経緯で、知識や経験のない医療分野に行き着いたのでしょうか?

高山 現在、展開している手術トレーニング用品の製造を始めたのは、医療機器メーカーに勤めている友人とのやりとりがきっかけでした。彼とは頻繁に会っていたわけではないのですが、彼に会うと「先生が、手術に使うためのものを欲しいと言っているのだが、つくれないか?」といったことをよく言われていたんですよね。

リーマンショック以前は、万が一事故などがあっても責任は負えないからと断っていました。けれども、僕が自社商品を模索しているときに、彼から「腹腔鏡手術の練習に使う機器を欲しがっている先生がいる」と聞いたんです。

飯島 腹腔鏡手術、ドラマなどで聞きますね。

高山 当時はまだ知名度が低く、今後の発展が期待されている技術でした。そのため、手術の道具は揃っているものの、それを練習するための道具は不十分で、先生方が自作したものを用いたりしている状況だということでした。「どこかでつくってもらえないか」と言っている先生もいるということで、その時に「やる」と即答したんです。

話を聞いてピンときたのが、それがどういうものかということよりも、市場はあるが道具がなく困っている人の要望に応えるのは、僕や当社の得意分野だということ。また、それは僕が探し求めていた「ほかに誰もやっていない」自社商品として、育てられる可能性があるのではないかと思ったんです。

その後送ってもらった見本を確認し、構造を改善したりして、1〜2日ほどで試作品を仕上げることができました。

飯島 これまでいろいろなものをつくってきた「なんでも屋」としての強みがあるからこそ、素早い対応ができたんですね。

高山 腹腔鏡手術の「トレーニングボックス」という製品は、プラスチックカバーに器具を通す穴が空いており、カメラを設置して手術の練習を行う機器です。市販品だと100万円などする立派なものもありますが、当社では材料や加工を自社と外注業者で折り合いをつけて、数千円ほどでつくれたんです。「1個2万円で売ってくれれば、若い先生たちは喜んで買うよ」と言われていたので、「これはいけるんじゃないか」と期待しましたね。

試作品は先生からも「これは抜群だよ」「すぐに量産して売りなよ」と言っていただきました。僕は最初、完成品は友人の医療機器メーカーで売ってくれるものと思っていたのですが、そこは外資の大手企業だったので、販売は当社で自由にして良いと言われたんです。自社商品が欲しかった僕にとってはラッキーな話でしたね。

学会展示でネットショップの売り上げが10倍に

高山 まずは友人からのアドバイスを受け、先生が日本全国で開いているセミナー会場に製品の見本とパンフレットを設置しました。するとすぐに10個くらい注文が入ったのですが、製品を送ってもお金を振り込んでくれない先生が何人かいたんですよね。何度も電話で催促したりしても払ってもらえず、これじゃ商売にならないなと。そこで注目したのがネットショップで、ラジコン事業のお客様たちから話を聞いて、ショップを立ち上げてみることにしました。

飯島 当時、ネットショッピングというものは、まだそこまで定着していませんよね。

高山 そうですね。ですからネットショップでの集客効果は、当時はそれほどありませんでした。そもそも当時は、ネット上で手術の練習道具を売っている店などなく、検索ワードに引っかかるのを待つだけでしたから。3か月ほど続けても時々しか売れないので、もう一度友人に相談したんです。すると今度は、先生が6,000人くらい集まる学会があるからと、そこでの出展を勧められたんです。これが2012年頃のことです。

大した売り上げもない町工場にとって、学会の展示ブースに参加することはハードルが高いことでしたが、ここまで進めたからにはやってみようと思い、申し込むことにしました。その時にかかった費用は、ブース代の30万円に僕の旅費などを合わせて40〜50万円くらいです。準備内容としては、製品サンプルや実際に体験できる設備、自作したポスターなどを事前に宅配便で送り、前日に僕が現地入りして1人で全てのセッティングを行いました。

そうして迎えた学会当日ですが、結果的には期間中の3日間、朝から晩までトイレに行く暇もないくらい忙しかったんですよ。「こんなに安くて良い練習道具があるの?」と先生方が集まってきて、ネットショップのみでの販売だと伝えると、その日のうちに購入してくださる先生もいました。ですから、学会に出展する以前は、月10万〜20万円ほどだったネットショップの売り上げが、その月は200万円ほどになったんですよね。

飯島 すごいですね。
 
高山 けれども200万円の売り上げがずっと続くわけでもないので、その後も年に2回ほどのペースで学会へ出展して販促活動を行っていました。学会に参加して良かったことは、たくさんの先生方と知り合い、コミュニケーションを図る機会がもてたことです。

さまざまな情報を収集できたりしましたし、「僕もこういうものが必要だと思っているが、君のところでつくれる?」などと提案を受けたりすることもありました。医療業界の人たちからは「高山さんの業界歴で先生方とこれだけコミュニケーションがとれて、仕事にできていることはすごいよ」と言われましたね。

飯島 やはりそれまでに培われた「できることはします」という精神が、コミュニケーション力の高さにもつながっているんでしょうね。

高山 そうだと思います。それまで先生方は、何かが欲しいと思ったときには、医療機器メーカーや商社と話をしてきたわけじゃないですか。ですから、ものをつくる人間と直接話をすることが新鮮だったと思います。もう1つは、かわいそうな町工場の親父ではないですが、肩肘張って話すような相手でもないからと、みなさんフランクに接してくださったのかもしれませんね。

ユーザーの声が直接聞けることもやりがいに

飯島 今回聞いたお話では、現場での取り組みが功を奏したのだと感じます。展示会へ出向かれたのが社長ご自身であることも大きいでしょうね。

高山 そうですね。自分で現場へ行くことで、ほかに何が足りないのか、どのくらいの価格帯が望まれているのかなども、だんだん見えてくるんですよね。

僕が何よりもうれしかったのは、注文品を納めて完了だったそれまでの仕事に対し、医療機器はつくると先生方がすごく褒めてくださることです。ユーザーから直接褒められるのですから、つくり手としては楽しくて仕方がなく、そしてやりがいにもつながります。

また、価格に関して工業系の仕事はどこもそうですが、「材料費がいくら、1時間加工賃はいくら…」という積み上げ方式じゃないですか。最後に管理費を10%乗せると「なんだこの管理費は?」と言われたりもするのですが(笑)。けれども医療分野のものづくりはまったく逆で、「先生がこういうものをいくらで欲しいと思っている」と、まず金額が見えるんですよ。

飯島 世間一般的に、ものを売る際には原価ありきですが、高山さんのつくられている医療機器はまさに、市場の価値として評価されたうえで、価格が決められているんですね。

高山 そうですね。ただ、単純につくるという点で見ると、すごく良い価格での値付けと言えますが、製造原価と定価の差が全て儲けになっているわけではありませんから。その儲けを得るためには、ほかの努力やお金もたくさん必要だということを、この取り組みをとおして実感しました。

僕がリーマンショックのときに自分でなんとかしようと思ったのは、何かを誰かのせいにしている自分を変えたかったからです。以前は「どうしてあそこは仕事をくれないんだ」「担当者にひどいことを言われた」などと言っている自分が、すごく惨めで嫌でした。けれども今はそうではなく、自分で仕事を探しに行って何が必要かを知り、それをつくって価格を決めることができます。結果が出なくてもそれは自分の責任だし、それを改善しようと努力する過程にも大きなやりがいを感じられるんですよね。

第4回に続く]

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