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【お客様インタビュー】新会社設立とクラウドファンディングが医療機器事業のはずみに(株式会社寿技研 5/7)

【お客様インタビュー】新会社設立とクラウドファンディングが医療機器事業のはずみに(株式会社寿技研 5/7)

事業のトランスフォームに焦点をあて、今注目の企業に、苦境からの脱却や業績が伸びた転機といった、さまざまなストーリーをお聞きするお客様インタビュー。今回は、埼玉県にある株式会社寿技研の代表取締役・高山成一郎さんからお話を伺います。

同社は金属・樹脂加工やラジコン用のスポンジタイヤ製造などを手がけ、近年では手術トレーニング用品などの医療関連機器製造にも注力されている会社です。現在の世相から見ても、同社の歩みは非常に興味深い例だと思いますので、みなさんぜひご一読ください。

▽動画も視聴いただけます

◇前回までの記事はこちら
【お客様インタビュー】脱なんでも屋を図る町工場が新事業に挑むまで(株式会社寿技研 1/7)

【お客様インタビュー】数字に強くなれば会社の将来がより見える(株式会社寿技研 2/7)

【お客様インタビュー】未知の医療業界で商品が売れた秘訣とは(株式会社寿技研 3/7)

【お客様インタビュー】食品からつくる医療用の模擬臓器の開発に挑戦(株式会社寿技研 4/7)

【出演者】
インタビュイー:
株式会社寿技研
代表取締役社長
高山 成一郎氏

インタビュアー:
株式会社古田土経営
代表取締役社長
飯島 彰仁

高評価は得るが市場がなかった模擬臓器

飯島 高山さんが毎日こんにゃくを練り続けた甲斐あって、ようやく質の高い模擬臓器ができたということですが、先生方に評価されたことで、この製品は跳ねたんですか?

高山 技術としては跳ねました。ところが、これは良いものだと高く評価してくれた先生たちですら、買ってはくれなかったんですよ。どうしてなのかと考えてみると、そもそもそういう練習をする場面が実はほとんどないんですよね。

飯島 そもそもですか!?

高山 ですから、あれば便利だとは皆さん思われていますが「これまでも練習はしていないのだから、使わなくても問題ないでしょ」と言われるのが実際のところです。

飯島 しかしそれだと、教習所に行かないで車に乗り始めるようなものじゃないですか。

高山 そうなんですよね。僕もよく例えるのですが、自動車教習所では場内教習で実技を習ってから路上に出るが、医療現場では座学と見学を済ませたその日から路上に出ている、と。もちろん先生方はまた違う感想をお持ちかもしれませんが、僕から見るとそう感じますね。

飯島 結局、市場があると思って時間をかけて尽力したのに、需要がなかったということですよね。そこからどうされたんですか?

高山 アメリカの展示会や学会などにも足を運んで、こんにゃく模擬臓器を出展したりもしていました。すると、現地で活躍する先生方や、海外の医療従事者たちからも「こんなにすごいものはない」と絶賛されるんですよ。ですから「これがどんなに良い製品でも、売り方を知らない僕が追い求めたところで、これ以上は売れないだろう」と感じました。それまで僕は、腹腔鏡手術トレーニングボックスをネットショップでしか売った経験がなく、医療業界でものを売るということを、全くわかっていなかったんですよね。

大手医療機器メーカーの優秀なマーケットや、セールス担当者たちとも交流するようになった僕は「彼らの手にかかれば、この模擬臓器もきっと売れるのに…」と思うようになりました。けれども当社のような小規模の町工場に、年収1,500万円ももらっている人材を招くことは、まあ難しいですよね。「世界中の人がきっと認めてくれるこの技術をなんとかしたい!」そう思いながら、どうすれば良いかと考えをめぐらす日々が続きました。

優秀なメンバーと共に3人で新会社を設立

高山 その頃、銀行主催のビジネスコンテストで賞を頂いたこともあって、投資やファンドの話も出ていました。けれども、本体には借金がたくさんあるし、50歳になった町工場の親父がベンチャーキャピタルに挑戦するのもどうなのかな…などと思っていました。

そんなある日、アメリカでの学会の様子をフェイスブックにアップしたところ、10年以上会っていなかった知人が「いいね!」をつけてくれたんです。その彼がファンドやベンチャーキャピタルなどにつながる仕事をしていることを思い出した僕は、すぐに「相談したいことがあるので会ってもらえませんか」とメッセージを送りました。そして彼がアメリカから帰国後、すぐに会い「これを売るためには、組織から考える必要があり、優秀な人と一緒に組めば絶対うまくいくはずなんです」と力説しました。

すると彼が「じゃあ、一緒に会社をつくってみますか?」と言ってくれて。2018年に新会社「KOTOBUKI Medical株式会社」を立ち上げました。そして、その時に会社設立を提案してくれたのが、現在、同社で取締役兼経営企画担当を務める杉浦なんです。

飯島 新会社の設立にはそういう経緯があったんですね。

高山 彼によると、僕のしたいことを寿技研で実現するのは、少し難しいかもしれないということでした。「高山さんの私情を切り離して、公の場所として別会社を興し、そこで一緒に仕事をする人を募るという形でならできると思いますよ」と言われて、ぜひともとお願いしたんです。その頃には当社の医療機器はテレビでも取り上げられるようになっていたので、協力してくれる人もきっといるはずだと思いましたし、新会社がファンドの受け皿になるとも考えました。

会社を興すことになってまず良かったのは「寿技研に入社してください」ではなく、「世界中に手術トレーニング用品を売る夢を一緒に叶えませんか」という誘い方ができることです。「KOTOBUKI Medical株式会社」で取締役兼セールス・マーケティング担当を務める梅本というメンバーは、世界的大企業「Jonson & Jonson」において、日本でずっとトップの営業成績を保持していた人なんですよ。彼が、自分で何かをしたいと会社を辞めた時に、僕と一緒にこういうことをしませんかと誘ったところ「面白いね」と賛同してくれました。そうして、財務担当の杉浦と営業担当の梅本、そして僕の3人で会社を興したんです。

飯島 すごいですね。最近つくづく思うのですが、スペックの高い人材を呼べる要素は給料だけではないんですよね。「世界やこの業界をこういうふうにしたい」という確固たる思いがある会社にこそ、本当に良い方が入って来る、今はそういう時代だなと思います。

高山 私も本当にそう思いますね。お金に関しては、3人で組んで新会社を設立すれば、投資ファンドがポンとお金を入れてくれるのかと思っていたのですが、これが案外厳しくて。「そんなものをつくって、いくらで売れるんですか?」「そもそも今市場がないですよね?」などと言われたりしましたから(笑)。

「いやいや、この商品は絶対に売れる」と自分では思っていますが、ベンチャーキャピタルや大きなファンドを説得することは、かなりハードルが高いんですよね。そこで「株式投資型クラウドファンディング」にチャレンジしてみることにしたんです。これは「当社はこんな取り組みをしています。将来はさらに成長して上場するので、株を買ってくれませんか」と資金を募る形のクラウドファンディングです。

ちょうどメディアでの露出も重なった直後で、クラウドファンディング会社の方もすごく面白いと言ってくれました。ただ、ベンチャーとはITなどのデジタル系の企業を指すことが多いので、町工場発のものづくり的なベンチャーが、投資家の目にどう映るのかは未知数だとも言われました。僕自身も、そこは少し厳しいかもしれないと思いました。ただ、全く評価されないかもしれないと思う反面、これまでたくさんの人が良いと言ってくれたものなので、中には賛同してくれる人もいるのでは…という思いもあったんですよね。

投資型クラウドファンディングで9000万円達成

飯島 目標金額はいくらに設定されたのでしょうか?

高山 このクラウドファンディングでは、最初に事業計画を立てるんですよね。世界中にこの製品を広めることを実現するため、最初の1、2年で何をするか、どういう人を雇ってどれくらい経費がかかって、いつ頃から黒字になるかなどを明確にします。会社を興した時からそういう計画をつくってはいましたが、端的に言えば、60か月分のBSとPLを月次単位で作成するような作業ですね。

飯島 5年分を!?

高山 はい。それから数字を算出し、自分の言っていることが数字上でも実現できるのかどうかの裏づけをとっていきます。僕は古田土会計にお世話になってから、数字に対するアレルギー意識はずいぶんなくなり、数字の大切さを理解できるようになりました。また、経営計画書なども利用させていただいていたので、計画を立てることにも抵抗なく行えたんですよね。ですから、チャレンジする会社をサポートしている公認会計士の方からは「今まで多くの会社を見てきたが、これだけきちんと数字を理解して、積極的に計画を作成できる社長はあまり見たことがない」と言われました。これは古田土会計のおかげだと思っています。

飯島 それは嬉しいですね。

高山 この事業計画を作成したことで、開発、製造、管理など、さまざまな分野のスタッフを雇うことも考えると、最低3000万円くらいは必要だということがわかりました。そこで僕たちは、最低金額2500万円、最高金額9000万円と設定してチャレンジすることにしました。最高金額を9000万円とした根拠はそんなにないんです。ただ、上限である1億円にすると少し適当っぽくていい加減かなということと、当時の過去最高記録が8000万円台だったということで、この金額に設定しました。

飯島 うまくいけば新記録をつくれるかもしれない額を目標にしたということですね。

高山 結果的には、チャレンジを開始して5分ほどで2500万円は突破したんです。その後、1時間で5000万円を突破し、最終的に26時間ほどで上限の9000万円を達成できたんです。この金額は現在も更新されていますが、2年間ずっと日本の最高記録だったんですよ。

今ではなぜそんなに集まったのかなと少し不思議にも思いますが、「医療手術の練習をこんにゃくのような身近な食材でできる技術」という分かりやすい内容だったからではないかと思います。また僕たちは、自分たちが町工場ということをオープンにしてチャレンジしたんですよね。当時は「下町ロケット」や「陸王」といったドラマも記憶に新しい頃です。皆さんがそれらの物語とダブらせて「日本の技術を背負っている町工場が頑張っていこうとチャレンジしている」と、応援してくださったのかもしれません。そういった意味では、僕が「若きイケメンIT社長」などではなかったこともかえって良かったのでは、と思っているんですよ(笑)。

第6回に続く]

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